2013年8月10日土曜日

シューズワークリレイションと弟子



ようやく手に力が入るようになり、少しずつ仕事もできるようになりました。
靴をお待たせしているみなさんには、ご迷惑とご心配をおかけしました。また、このようなことになっても、心優しいお言葉をかけて頂き、本当に嬉しく思っています。ありがとうございます。病気前より元気になって、元気いっぱいの靴をつくりたいと思います。


弟子たちのことをこの機会に紹介しようと思います。
弟子は僕が靴づくりを伝えているシューズワークリレイションを受講して、
1年間僕と一緒に靴づくりをやってきました。
ベビーや小物、自分の靴など、1年間でいっしょにやってきたことはカタチにしてみれば
たったそれだけのことですが、いっしょにテーブルを囲んだ時間と会話と空気は、靴の技法以上に大切なことを含んでいました。手を動かしながら、何気なく話すその日その日の出来事やこども、政治、原発の話。これまでは妻と二人だったけれど、いまは弟子という家族が増えて、仕事が一段と愉しくなっています。

1番弟子の星さんは細かいことに集中できる人で、革の端切れを上手に使います。手もよく動いて、感覚の豊かな人。ここに来てまだ1年だけど、いま自分の出来ることを考えて、見付けています。今できることを考え、最大限に自分を活かすことができれば、もう立派な大人。僕が偉そうなこと言えるのは、せいぜい靴の作り方を教える時くらいです。僕は彼女をとても信頼しています。

もう一人の弟子の熊谷さんは僕がこの仕事を始めて最初の生徒さんでした。だから5年もいっしょに靴をつくってきましたが、いつも丁寧に丁寧に作業していて、進行は早いとは言えないけれど、見ていると急かしたくなるどころか、逆にこちらがその歩調に合わせてしまう不思議な方です。そんな熊谷さんはもうすぐ結婚をして、岡山へ引っ越してしまいます。彼女がここで最後につくった靴は自分と旦那さんのおそろいのルームシューズ。妻のコモンシューズをとても気に入ってくれて、ルームシューズにアレンジしてつくりました。
思い返せば、一番最初につくった靴も妻とおそろいのギリーシューズで、今でも一番よく履いているようです。いつも可愛らしくコーディネイトしていて、本当によく似合っています。最後につくったルームシューズは、きっと新婚さんの温かな家でたくさんの人から注目を浴びることだと思います。本当に可愛い。シューズワークリレイションの1年間でこの素敵な靴をひとりでつくれるようになったのも、ここから遠く離れて1人で靴づくりを続けていく決意があったからだと思います。でもきっとこの靴が強い磁力をもって、すぐに素敵な仲間に巡り合えると思っています。もちろん僕もこれからもずっと彼女の仲間です。


シューズワークリレイションでは靴の技術を伝えることよりも、その使い方をいっしょに創りだしたい。1年で見付かる人もいれば、10年かかる人もいるかもしれない。それでもその初心を忘れずにいられるのは、お金や技術、損得勘定で結ばれた仲間ではないから。
ひとりでやろうとするから、人を信じれなくなる。人を信じれないから1人でやるのか。
まずは最低でもテーブルを囲んだ人たちが誰も不幸せにならない方法を探せばいいと思う。
決して簡単なことじゃないけれど、それを可能にするのは、それこそ技術や画期的なアイデアではなくて、単純に人を信じることなんだと思う。
そして、僕らはこのテーブルの先のことも前のことも想像できる力を持っています。健やかで笑顔の溢れる社会はこんなところからでも創りだせる。